日本トキシコロジー学会学術年会
第35回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: O-25
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4.毒性機序II (腎、免疫、造血、脳神経)
加齢に伴う造血微小環境の機能低下は抗癌剤投与後のB細胞産生を遅延させる
*壷井 功平林 容子原田 智紀児玉 幸夫菅野 純井上 達相澤 信
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抄録
加齢に伴う定常状態のB細胞造血の低下は、造血微小環境を構成する骨髄ストローマ細胞のB細胞造血に対する増殖因子であるIL-7と、抑制因子であるTGF-βの産生が共に低下し、B細胞造血が抑制平衡状態 (suppressive homeostasis)に移行する事に起因することを見いだしている。これらsuppressive homeostasisの状態が造血傷害時にどのように変化をするかは興味深い。今回我々は、造血傷害を惹起するため抗癌剤である5‐fluorouracil(5-FU)をマウスに投与し、投与後の骨髄中の顆粒球‐マクロファージ系前駆細胞(CFU-GM)数とB細胞前駆細胞(CFU-preB)数の回復過程、および骨髄間質細胞から産生される各種サイトカインの遺伝子発現の変動を測定した。マウスは加齢に伴い造血微小環境の機能低下を認める老化促進モデルマウス(SAMP1)を用い、造血微小環境の機能低下を認めない若齢マウスを対照とした。加齢マウスは若齢マウスと比較し、骨髄中のCFU‐GM数の回復は差を認めなかったにもかかわらず、CFU‐preB数の回復は著明に遅延した。顆粒球系の造血刺激因子であるGM‐CSF、IL‐6、B細胞造血刺激因子であるIL‐7、SDF‐1、B細胞造血抑制因子であるTGF‐β、TNF‐αについて検討すると、投与後7日目まではこれらのサイトカインがすべて増加し、若齢および加齢マウス間で差を認めなかった。投与後7日以降は、若齢マウスではSDF‐1およびTNF‐αが投与前の発現量に戻ったのに対し、加齢マウスではSDF‐1 発現の低下、およびTNF‐α発現の増強を認めた。これらの結果から、加齢に伴うB細胞造血の造血傷害物質による回復低下は、造血刺激因子の産生低下のみならず、抑制因子の産生亢進による調節機能低下、すなわち抑制平衡的悪循環(vicious suppressive homeostasis) によると考えられた。
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© 2008 日本毒性学会
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