抄録
【緒言】血清中トランスアミナーゼ(ALT及びAST)は肝障害の高感度な指標として広く使われているが,fibratesのような脂質低下剤は,臨床において肝障害を伴わずに軽度にトランスアミナーゼ活性を上昇させることが報告されている。このトランスアミナーゼ活性の上昇については,主にin vitro試験で発現メカニズムが検討されており,fibratesによる血清トランスアミナーゼ活性の上昇が,肝細胞障害による酵素の逸脱ではなく,肝細胞におけるトランスアミナーゼの誘導に関連していることが示されてきた。今回,fibratesの一つであるfenofibrate(FE)の400mg/kgを雄性F344ラットに単回経口投与して,FEの薬理作用,血漿及び肝臓中トランスアミナーゼ活性,肝臓におけるASTのmRNA発現量に対する影響をin vivoで検討したので報告する。
【結果及び考察】FEはラットにおいて血漿中ALT及びAST活性を軽度に上昇させたが,他の肝機能パラメーターに変化はみられず,肝臓の病理組織学的検査においても肝障害を示唆する所見は認められなかった。血漿中ALT及びAST活性の上昇は,肝臓中トランスアミナーゼ活性の上昇と相関し,肝臓中AST活性の上昇はmRNA発現量の増加を伴っていた。これら,FEによるトランスアミナーゼ活性の上昇あるいはmRNA発現量の増加は,FEの薬理作用に関連した二次的な変化であると推察された。本研究で得られた結果から,臨床におけるfibratesなどの脂質低下剤や糖代謝を修飾する薬剤により誘発される血清中トランスアミナーゼ活性の軽度な上昇には,トランスアミナーゼ遺伝子の制御が深く関わっていると考えられた。