抄録
【目的】多くの抗精神病薬は,線条体におけるドパミン神経伝達を遮断して錐体外路系副作用を誘発し,非定型抗精神病薬が登場した今
日においても大きな臨床問題となっている。さらに近年では,気分障害治療においても非定型抗精神病薬が使用されはじめ,SSRIな
どの抗うつ薬と併用される機会が急増している。そこで今回,抗精神病薬による錐体外路系副作用発現に対する抗うつ薬併用の効果を
検討し,その作用機序を解析した。
【方法】実験にはddY系雄性マウスを使用し,haloperidol (0.3mg/kg i.p.)の投与30分後に,catalepsy-testあるいはpole-test法により
錐体外路障害を評価した。5-HT作動薬としては,SSRIのfluoxetine,paroxetineあるいは5-HT前駆体の5-hydroxytryptophan(5-
HTP)を用い,これら薬物をそれぞれHAL投与の30分および60分前に腹腔内投与した。作用機序検討においては,各種の5-HT受容体
サブタイプ拮抗薬を併用投与した。
【結果および考察】Haloperidolの錐体外路障害誘発作用は,fluoxetineあるいはparoxetineによっていずれも用量依存的に増強された。
同様の増強効果は5-HTPによっても認められ,5-HT神経機能の促進が錐体外路障害を悪化することが確認された。次に,各種5-HT受
容体拮抗薬の作用を検討した。その結果,5-HTPによる錐体外路障害の増強はritanserin(5-HT2拮抗薬),ondansetron(5-HT3拮抗薬),
SB-258585(5-HT6拮抗薬)によって拮抗され,5-HT1A(WAY-100135), 5-HT4(GR-125487), 5-HT5a(SB-699551), 5-HT7(SB-
269970)受容体拮抗薬によっては影響を受けなかった。さらに,fluoxetineの錐体外路障害増強作用もritanserin,ondansetron,
SB-258585によって有意に軽減された。以上の結果から,抗精神病薬による錐体外路系副作用は,抗うつ薬の併用により悪化し,こ
の増強には抗うつ薬による5-HT2,5-HT3および5-HT6受容体を活性化が関与していることが示唆された。