抄録
目的:ヒ素の代謝にはグルタチオン(GSH)が重要な役割を担っている。本研究においては,胆汁中のγ-GTP活性,GSH及び総ヒ素濃
度の測定と,胆汁と尿中ヒ素の化学形態別分析を行い,ヒ素の体外排泄に及ぼすγ-GTPの影響について検討した。方法:精製食で成
育させた雄性SDラットに対し,麻酔下で胆管カニュレーションを施した。γ-GTPの阻害剤GGSTop®(25μmol/kg b.w.)または生理食
塩水を尾静脈投与し,30分毎に1時間,氷上で胆汁を採取した。その後,ヒ酸ナトリウム(1.0 mg As/kg b.w.)を尾静脈投与し,同様
に2時間胆汁を採取した。阻害剤投与3時間後に解剖し,血液,肝臓,腎臓,脾臓及び十二指腸を摘出し,また膀胱より尿を採取した。
総ヒ素濃度はICP-MSにて,ヒ素の化学形態別分析は,HPLC-ICP-MS法によって測定した。また,胆汁中GSH濃度はLC-MSで,それ
以外は測定キットを用いて測定した。γ-GTP活性は蛍光分光光度法にて測定した。結果:各試料におけるγ-GTP活性は,阻害剤の投
与により有意に低下した。GSH濃度は肝臓を除いて,対照群と比較し阻害剤投与群の方が高かった。総ヒ素濃度は,全血及び胆汁中で
は両群にほとんど差はみられず,それ以外の臓器では,阻害剤投与群が高い傾向にあった。化学形態別分析の結果から,胆汁中へは両
群共にmonomethylarsenic diglutathioneとして排泄されていることが分かった。一方,尿中へは対照群では3価および5価の無機ヒ
素化合物として,阻害剤投与群ではその他にarsenic triglutathioneとしても排泄されていた。これらの結果から,γ-GTP活性は体内
におけるヒ素-GSH抱合体の安定性には密接に関係しているものの,ヒ素の排泄量に関してはあまり影響を与えないことが示唆された。