抄録
母乳育児には様々なメリットがあることが知られており,また,最近も多くの知見が得られている。
ここでは,科学的に証明されたメリット,最近得られた知見,そして私見を交えてそれらをレビューする。栄養としての母乳のメリッ
トで,科学的に証明されているのは,乳児に対して,一般的な健康,成長,発達がえられ,多くの急性,慢性の病気の危険性が減るこ
とである。乳幼児突然死症候群,や糖尿病,炎症性腸疾患などの罹病率を減らす可能性がある。認知機能については,最近,母乳育児
で有意に高くなることが報告された。いわゆるメタボリックシンドロームについても罹病率が低下する可能性が報告されている。また,
母親にとっても,授乳は,オキシトシンの値を上げ産後の出血を減らし,子宮復古を速める,閉経後の大腿骨頚部骨折が減少する,卵
巣ガンと閉経後の乳がんの危険性が減るなど,良い影響があることが知られている。
母乳育児が母子関係に与える影響では,育児放棄や虐待が減少する可能性も示唆されている。
ヒトは哺乳類に属し,哺乳類は母乳で子どもを育てる動物である。授乳方法や回数は種によって様々である。ヒトを含む霊長類では子
どもを抱いて授乳して育てる。そのためその方法は,breastfeedingと呼ばれ,大和言葉では“おっぱい”がそれに当る。霊長類の母子
は密着して生活する。特に最初の数カ月は,ほとんど母子は一体であるといってよい。最近,出産・出生直後からの母子の支援を適切
にすることで母乳育児率が上がることも知られるようになり,WHO/UNICEFの母乳育児を成功させるための10カ条でも,出生直後の
母子接触,早期の授乳,母子同室と赤ちゃんのサインに応じた授乳などが示されている。
母子が常にともにいて,いつでも授乳できることが,最も安定した母子関係を形成する。そのような母子にやさしい環境が,これから
の病院,職場,そして社会に求められている。