抄録
【目的】タバコの煙に多く含まれているニコチンは,人体に様々な影響を及ぼすことが知られている。ニコチンは肺や皮膚から速やかに吸収され中枢神経を刺激する。ニコチンの急性中毒症状として頭痛・眩暈・嘔吐・呼吸困難を引き起こし,重症の場合は痙攣・呼吸麻痺で死亡する。しかしながら,ニコチンによる海馬の神経毒性については詳細に解明されていない。
【材料と方法】本研究では,ニコチンによる神経細胞に対する毒性をmiRNAレベルで解明を試みるため,ddY系マウスに脳室内投与用ガイドカニューレを挿入する手術を施し,手術後7日間の回復期間をおいた。その後,ニコチンを1mg,10mg,60mgの3用量脳室内投与し,ニコチン投与4時間後および24時間後に海馬を摘出した。Small RNAを含むトータルRNAを抽出し,10mgおよび60mgのサンプルについて,miRNAアレイおよびDNAマイクロアレイ解析を行った。
【結果と考察】ニコチン10mg投与群では13個のmiRNAが2倍以上の変動を示し,定量PCRで再現性を確認したところ,4個のmiRNAについて再現性が得られた。60mg投与群では4時間後,24時間後サンプルを合わせて15個のmiRNAが変動していた。また,DNAマイクロアレイ解析の結果,ニコチン10mg投与24時間後群では約500個の遺伝子が変動しており,ニコチン60mg投与群では,約700個の遺伝子が変動していた。これらの遺伝子の中で,炎症,ストレス応答に関連する遺伝子群が変動していることが認められた。現在のところ,ニコチン性アセチルコリン受容体遺伝子の変化は認められておらず,ニコチン脳室内投与の海馬に対する影響はニコチン受容体を介さない毒性が起きていることが示唆される。今後は,miRNAの変動と,変動した遺伝子との関連およびその毒性発現機序についてさらに検討する必要がある。