抄録
<目的>胆汁酸排泄トランスポーターBSEP(Bile salt export pump)は肝臓胆管側に発現しており、胆汁酸排泄による、胆汁流形成、コレステロール代謝、脂質等の吸収などを担う。また、重篤な肝障害を引き起こし製造中止となった抗糖尿病治療薬トログリタゾンはその硫酸抱合体とともに、BSEP阻害をおこすことが報告されており、BSEP機能変動による胆汁酸の肝蓄積が肝障害の要因の一つであると考えられている。Sandwich cultured hepatocytes(SCH)は既存の初代培養肝細胞に比べ、高い代謝活性、トランスポーター機能を維持していることから、肝臓でのIn vitro薬物動態評価法として注目されている。そこで本研究では薬剤性肝障害の新たな評価系としてSCHを用い、BSEP機能低下と胆汁酸毒性を定量的に評価する事ができる系の構築を行った。
<方法>Sprague-Dawley ratからSCHを調製した。血漿中に含まれる各胆汁酸を培地に加え、肝障害性薬剤として知られる化合物(シクロスポリン、ケトコナゾール等合計約30化合物)を24時間SCHに暴露、LDHアッセイにて肝細胞毒性を評価した。また、各薬剤によるBsep機能低下を[³H]-Taurocholate(1µM)を用いBEI(Biliary Excretion Index)にて評価した。
<結果・考察>本検討に用いた胆汁酸および、被検化合物のみをそれぞれ、SCHへ暴露した場合では毒性が見られない一方で、両者を同時に暴露することで、用いた被検化合物の約40%が有意に毒性を発現した。また、毒性が見られた被検化合物はBEIを有意に低下させ、毒性とBEIの間には良好な相関関係が見られた。これらの結果から、SCHを用いたBsep機能低下による胆汁酸依存性薬剤性肝障害評価系の構築に成功し、本評価系をヒト肝細胞に用いることで、臨床で起こりうる肝障害を前臨床において予側することが可能となる事が期待される。