抄録
放射線等によりDNA二本鎖切断が誘導されると、その部位を中心に近傍のヒストンH2AXがリン酸化される。最近になって、このヒストンH2AXのリン酸化がDNA二本鎖切断だけでなく、他のDNA損傷を起因としても誘導されることが報告され、新しいDNA損傷マーカーとして注目されている。本研究では、化粧品、医薬品、農薬等に含まれている化学物質の光遺伝毒性の検出におけるヒストンH2AXのリン酸化応用の有用性について検討した。
ヒト培養表皮細胞HaCaTに、強い光毒性を示すことが知られている化学物質 (8-methoxypsoralen, 5-methoxypsoralen, promethazine hydrochloride, chlorpromazine hydrochloride) 、弱い光毒性を示すことが知られている化学物質(bithionol, 6-methylcoumarin, rose bengal sodium salt,neutral red, tetracycline)、及び光毒性を有さない化学物質 (sodium lauryl sulfate,L-histidine) を30分作用し、UVA (5J/cm2) を照射した。一定時間後に、H2AXのリン酸化をウェスタンブロット法及び免疫染色法によって検出した。さらに、それらH2AXのリン酸化の検出感度を、細胞生存率の変化及びパルスフィールドゲル電気泳動法によるDNA二本鎖切断の検出結果と比較した。
ヒストンH2AXのリン酸化は、光毒性を有することが報告されている化学物質すべてにおいて検出された。その検出感度は、生存率、電気泳動によるDNA二本鎖切断の出現と比較し10~1000倍程度高かった。一方、光毒性を有さないとされる化学物質については高濃度を曝露した場合においてもH2AXのリン酸化を誘導することはなかった。以上の結果より、化学物質の光遺伝毒性検出において、高感度検出が可能な上に、偽陽性を示しにくいヒストン H2AXのリン酸化は、有用な一指標であると考えられた。