抄録
医療機器は、主にプラスチックを原材料とするシリンジや血液バックなどの単純な構造を有するものから、様々な素材で構成され複雑な構造を有する人工心臓に至るまで、その製品の原材料や構造には幅広い多様性がある。このように多様性を持つ医療機器の生物学的安全性については、どのように評価するのだろうか?
医療機器の生物学的安全性評価にあたっては、まず、医療機器を「体のどの部分に接触するか」そして「その接触時間はどれくらいか」で分類する。そして、分類したカテゴリーによって、どのような試験を実施すべきかを検討する。例えば、体温計は健常な皮膚に一時的に接触(24時間以内)する医療機器に分類され、この様な医療機器は、細胞毒性試験、感作性試験、刺激性試験の実施を検討する。一方、血管内に留置されるステントは体内埋込機器として、組織や血液に長期間(30日を越えて)接触する医療機器に分類され、前述の3試験以外に、急性全身毒性試験、亜急性・慢性毒性試験、遺伝毒性試験、発熱性試験、埋植試験、血液適合性試験の実施も検討しなければならない。これらの試験に医療機器そのものを使用することができない場合は、医療機器を生理食塩液や有機溶媒で抽出し、その抽出物や抽出液を用いて評価する。一方で、血液適合性や急性・亜急性毒性などは、医療機器そのものを大動物で評価する有効性試験などと同時に実施する場合もある。このような評価方法は医薬品・化粧品には無い医療機器特有のものである。なお、厚生労働省への承認申請に必要な生物学的安全性試験は、全て医療機器GLP基準で実施することが求められている。
当社では、獣医師、薬剤師、臨床検査技師の他、材料工学の専門家も加わってこのような評価を行っている。今後は更に複雑化したハイリスクの医療機器が開発されて来ることから、医療機器の生物学的安全性を担保するためには、さらに多様な専門的知識や技術を持った人材が求められる。