抄録
1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)はパーキンソン様症状を引き起こす神経毒であり,神経型一酸化窒素合成酵素 (nNOS)によりその毒性が増強される.これまでに毒性発現メカニズムの詳細は明らかにされていない.近年,NOと活性酸素種 (ROS)に依存して産生される新規のセカンドメッセンジャー,8-ニトロcGMPが発見され,新しいシグナル伝達機構としてNO-ROSシグナルについての解析が進められている.本研究では,パーキンソン病における神経毒性メカニズムを解明することを目的とし,MPTPの活性代謝物である1-methyl-4-phenylpyridinium ion (MPP+)による神経細胞毒性とNO-ROSシグナルの関与について検討した.
nNOS恒常発現PC12細胞を作製し,MPP+で処理したときの細胞毒性,ROS及び8-ニトロcGMPの産生を調べた.さらに,細胞毒性メカニズムを解明するため,活性化Ras/Erkシグナル伝達経路の関与をWestern blottingで解析した.
MPP+による細胞毒性はnNOS非発現細胞と比較してnNOS発現細胞でより強く認められ,ROS及び8-ニトロcGMPの産生量が増加していた.nNOS依存性細胞毒性の増強効果は活性酸素捕捉剤により消失したことから,増強効果にnNOS由来の活性酸素が関与していることが示された.また,nNOS発現細胞においてRas及びErkの活性化が認められた.以上のことから,MPP+による神経細胞毒性には,nNOS由来のROSが関与することが明らかとなり,さらにNO-ROSシグナルの下流分子である8-ニトロcGMPが活性化Ras/Erkシグナル伝達経路を介して細胞死をもたらすことが示唆された.