日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: MS2-6
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若手研究者セミナー
メチル水銀によるタンパク質のS-水銀化とそれに伴う機能破綻
*神田 洋紀外山 喬士熊谷 嘉人
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抄録
メチル水銀(MeHg)は水俣病の原因物質であるが、現在では生物濃縮を介してマグロ等の大型食用魚類の摂取により我々の体内に侵入する、低濃度曝露が懸念されている環境化学物質である。MeHgイオンとタンパク質のシステインのイオウ部分(SH基)に対する親和力(解離定数pK=15.7)は他の種々のアミノ酸リガンドに対するどれよりも大きい。従って、体内に入るとMeHgはSH基特異的に共有結合して、タンパク質はMeHgによる親電子修飾(S-水銀化)を受ける。一般に、このことがMeHgの毒性発現に関係していると考えられているが、一方でその実態解明のために必要と考えらえる“ケミカルバイオロジー的なアプローチ”は少ない。その理由のひとつとしては、MeHgのS-水銀化を同定する手法が確立していなかったことがあげられる。
 我々は、MeHgがマンガン(Mn)スーパーオキシドディスムターゼ、神経型一酸化窒素合成酵素、およびアルギナーゼIをS-水銀化して、それぞれの機能を破綻することを報告してきた。更に、S-水銀化はタンパク質の構造変化を引き起こすため、タンパク質によっては不溶化が生じるのではないかと考えた。そこで、肝臓中の主要なMn結合タンパク質であるアルギナーゼIに対するMeHgの影響を検討した結果、S-水銀化により不溶化することが確認され、インビボで肝臓中のMn濃度の低下も認められた。このような背景から、MeHgによりS-水銀化されて不溶化するタンパク質のスクリーニング系を確立した。更に、本系によりS-水銀化の標的分子を探索した結果、糖代謝を司るソルビトール脱水素酵素(SDH)が同定された。
 本シンポジウムでは、これまで明らかにした当該スクリーニング法、MeHgのS-水銀化の検出方法、ならびにSDHの酵素活性の低下および不溶化に係わるS-水銀化部位等について紹介し、不溶化の原因についても考察する。
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© 2012 日本毒性学会
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