抄録
【目的】安全性薬理試験ではテレメトリー法で無麻酔無拘束下での大動脈圧を測定するが、心臓左室内圧(LVP)を測定することはない。しかしながら、近年、心臓機能を測定することも求められるようになってきた。こうした状況に対して2か所同時に圧を測定できるテレメトリー送信器が開発されたので、我々は大動脈圧に加え、心臓左室内圧を無麻酔無拘束下で測定し、心収縮力の指標であるLVdP/dtmaxとQA間隔の違いについて検討した。さらに、カニューレ留置による左心室損傷の程度を調べた。【方法】ベトナム産のカニクイザルを用いてテレメトリー送信器(TL11M3-D70-PCTP、Data Sciences International、USA)の血圧センサーを大腿動脈および心臓左心室内に留置し、心電図電極を心外膜に逢着した。データは,テレメトリー取得解析システム(Open ART Ponemah、Data Sciences International、USA)により完全自動解析を行った.手術後1、2、3、4および5週間のLVdP/dtmax およびQA間隔の日内変動を比較した。また、左心室内へのカニューレ挿入による影響を調べるため、挿入部(心尖部)から0.5cm間隔で心臓を横断し、HE標本を作製して鏡検した。【結果および考察】心収縮力の指標であるLVdP/dtmax およびQA間隔は、テレメトリー手術後1~5週間のそれぞれの日内変動パターンに差は認められなかった。LVdP/dtmaxの日内変動は、明期で高く暗期で低い傾向を示し、QA間隔では、前者で短く後者で長い傾向であった。また、カニューレ挿入部を中心に局所的にごく軽微の出血、血栓、褐色色素の沈着および線維化が認められたが、カニューレ留置による左心室の組織損傷はごく軽微であったことから、心臓機能に及ぼす影響は極めて低いと考えられた。以上のことから、カニクイザルにおいてテレメトリーシステムを用いた無麻酔無拘束下で左室内圧の測定および心収縮力の評価方法が確立できた。