抄録
銀粒子は、広範なスペクトルで細菌に対して優れた殺菌/抗菌効果を発揮するため、既に抗菌剤として食品や食器へ利用されている。この銀粒子の粒子径を微小化すると、比表面積が増大し、菌体との接触確率が高まることから、その抗菌効果が飛躍的に向上することが知られている。そのため、現在では直径100 nm程度のナノ銀粒子(nAg)や10 nm程度のサブナノ銀粒子(snAg)が開発されている。しかし、直径が100 nm以下のナノ・サブナノマテリアルは、サブミクロンサイズの従来素材とは異なる想定外の生体影響を誘発し得ることが懸念されている。そのため、ナノ・サブナノマテリアルのリスク解析に資するハザードや体内吸収性/動態の理解が急務となっている。特に、nAg・snAgは強力な殺菌/抗菌効果を発揮することから、一般毒性学的観点からの情報収集に加えて、全く理解されていない、宿主の恒常性維持に必須の腸内細菌叢に対する影響を評価する必要がある。そこで本発表では、nAg・snAgのハザードを同定する目的で、各粒子を経口投与したマウスを用いて一般毒性学的解析ならびに腸内細菌叢の解析を試みた。1次粒子径が20 nmのnAgと、1 nmのsnAgをBALB/cマウスに28日間経口投与した後、血球・生化学マーカーの評価、ならびに糞便中腸内細菌DNAのT-RFLP解析を実施した。その結果、nAgとsnAgは625 µg Ag/kg以下の濃度では生体影響を及ぼさなかった。その一方で、多くの腸内細菌の割合が増減していた。特に、制御性T細胞の分化・誘導に必須のクロストリジウム属の割合が著しく減少した点は非常に興味深い。以上、nAg・snAgの経口摂取が、腸内細菌叢の変動を介して腸管免疫系に何らかの影響を及ぼす可能性が示された。現在、nAg・snAg投与による腸内細菌の変動と宿主の健康影響との関係の因果関係を追求している。