抄録
幾つかの研究において,妊娠動物におけるナノマテリアル暴露が,胎仔の奇形を誘発することや,胎仔に移行して発達・機能障害を引き起こす可能性が報告されていることから,ナノマテリアルの慢性毒性ポテンシャルについて詳細な検討が必要である.本研究では,暴露したナノマテリアルが血流に乗って全身を循環して生殖・発生毒性を引き起こす可能性について検証するために,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)について妊娠ラットを用いた尾静脈内投与試験を行った.MWCNT(MWNT-7)を雌ラットから採取した血清に添加し,超音波バスを用いて30分間超音波処理を行ったところ,MWCNTは血清中によく分散し,投与中にMWCNTの凝集・沈降は認められなかった.このMWCNT懸濁液を妊娠7,8,9,および10日のCrlj:CD(SD)ラットそれぞれ5匹ずつに,予備試験で投与可能な最大量と判断された0.5 mg/kg bwの用量で投与し,妊娠20日に帝王切開して病理組織学的にMWCNTの組織への沈着を確認するとともに,胎仔への影響について検討した.母動物の病理組織学的検査では,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,および脳においてMWCNTの沈着が確認され,肺において好中球浸潤および肉芽腫がみられたことから,投与したMWCNTは血流に乗って全身を循環したと考えられる.胎仔の検査では,着床痕数,黄体数,胚・胎児死亡数(早期および後期吸収胚),生存胎児数,性別,生存胎児体重,生存胎児胎盤重量,および生存胎児外表観察のいずれにおいても,MWCNT投与の著明な影響は認められなかった.以上の結果から,暴露後に血流に乗ったMWCNTが生殖・発生毒性を引き起こす可能性は低いと考えられた.今後は,呼吸器系へ暴露した場合の肺の炎症や機能障害等を介した生殖・発生毒性について検討するために,MWCNTの気管内投与試験を実施する予定である.