抄録
患部に直接適用することを目的とする外用剤や点眼剤では適用局所の薬物濃度は高くなる。点眼投与を想定した場合には、角膜や結膜といった外眼部組織は必然的に高曝露にさらされることになる。しかし、骨髄細胞小核試験や肝UDS試験などの全身曝露でのin vivo試験では、急性毒性から高曝露を実現できない問題点があった。今回我々は点眼投与時に薬剤に高濃度暴露される眼組織における遺伝毒性評価の一環として、角膜細胞を用いたコメットアッセイを検討した。
不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用い、牛胎児血清5%添加(最終濃度) のDMEM/F12培地培養化(37℃、5% CO2環境)で実施した。選択した代表的な変異原性物質は、アルキル化剤としてメチルメタンスルホン酸(MMS)、インターカレーター剤としてアクチノマイシンD(AMD)、酸化剤として過酸化水素(H2O2)、DNA架橋剤としてマイトマイシンC(MMC)、塩基類似化合物として5-ブロモウラシル(5-BrU)の計5物質とした。コメットアッセイはアルカリ条件でのマイクロゲル電気泳動を行い(Singh NP et al., Exp Cell Res. 1988;175:184-191)、50~75個の蛍光染色された細胞の画像を取り込み、画像解析でDNA損傷を%DNA in Tailとして定量化した。その結果、MMSとAMD、H2O2が濃度依存的に%DNA in Tailの増加が認められた。一方、MMCと5-BrUでは%DNA in Tailの増加は確認されなかったが、これは他の細胞の結果と一致していた。
以上、結論として、in vitroヒト角膜培養細胞を用いたコメットアッセイによりDNA損傷性を評価可能であることが示され、点眼剤の眼局所における遺伝毒性の評価への有用性が示唆された。今後は、実際の投与条件下を想定し、in vivo点眼投与後の角膜細胞を用いた評価系も合わせて検討する予定である。