抄録
ヒトを含む多くの哺乳類では生殖細胞の顕著な増殖は出生前に限定され、それを貯蔵する原始卵胞は排卵に向け漸次発育開始することによりその数を減じていると考えられている。第38回本学会で我々は、新生雌ラットへのEE投与が若齢での性周期停止といった遅発型影響を及ぼすことを報告した。雌ラットの新生児期は脳の性分化時期であると同時に卵巣での原始卵胞形成時期でもあることから、新生児期EE曝露が原始卵胞数の推移に及ぼす影響を検討した。
Crl:CD(SD)妊娠ラットから自然分娩により得られた雌ラットにEEを0(コーン油)、0.4、2.0 μg/kg/dayの用量で1日齢から5日間反復経口投与し、10日齢および22-23週齢に剖検して卵巣を採取し、片側をブアン固定した。固定した卵巣は常法に従いパラフィン包埋し、6 μm厚で薄切して連続切片とし、HE染色標本とした。連続切片から原則として5枚間隔で卵巣組織を選び、核小体が確認された原始卵胞を数えた。また、22-23週齢の卵巣について黄体および嚢胞状卵胞の有無を確認した。その結果、いずれの投与群も22-23週齢の卵巣における原始卵胞数は10日齢のそれと比べ減少していたが、対照群とEE投与群の間で有意差は認められず、加齢に伴う消費量に顕著な差のないことが示唆された。22-23週齢の卵巣では、対照群の10例中1例、0.4 μg/kg/day投与群の9例中7例ならびに2.0 μg/kg/dayの10例全例に黄体を確認できなかった。また、EE投与群の全例に嚢胞状卵胞が認められ、排卵周期が長期にわたり停止し、排卵しなかった卵胞が嚢胞状に変性して残留したものと推測された。以上の結果から、新生児期にEE曝露を受けた動物では排卵周期が停止しても排卵周期を回帰している動物と同様に原始卵胞が消費されていると考えられた。
(本研究の一部は厚生労働科学研究費の補助を受けた)