抄録
constitutive androstane receptor(CAR)は、薬物代謝酵素の誘導に関わる主要な核内受容体として知られている。一方で、CARは薬物動態の調節のみならず、糖や脂質などの内因性物質レベルの調節にも関与することが示されている。しかし、その全容や機序の詳細は不明である。そこで本研究では、エネルギー代謝におけるCARの新規生理機能の解析を試みた。CAR活性化薬投与に伴うマウス肝臓における脂質代謝関連遺伝子の発現変動を、DNAマイクロアレイにより網羅的に解析した。その結果、CAR活性化に伴いインスリンシグナルや脂肪酸酸化に関わる遺伝子の発現レベルの低下が示唆された。レポーターアッセイの結果、CARの活性化はマウスHmgcs2の転写活性化作用を有するperoxisome proliferator activated-receptor α (PPARα)の活性化薬bezafibrate(BZF)の処置に伴うレポーター活性の上昇を抑制した。同様の結果はヒトHMGCS2でも得られた。また、DNAアフィニティー法およびツーハイブリッド法の結果、PPAR応答領域上においてCARは何らかの因子を介してPPARαと相互作用し、その複合体形成を介してHMGCS2の転写活性を減弱させる可能性が示唆された。さらに、培養ヒト肝細胞においてBZF処置により増加したHMGCS2 mRNAレベルは、CAR活性化薬の併用により低値を示した。以上の結果から、ヒトとマウスの肝臓において、CARはPPARαを介したHMGCS2遺伝子の転写を負に制御することが示された。ケトン体は、糖尿病や絶食時において高値を示し、1型糖尿病患者ではケトアシドーシスが臨床上問題となっている。一方で、絶食時や糖尿病モデル動物においてCARの活性は増大すると報告されている。本研究成果から、CARはHMGCS2発現において負の調節因子として機能することで、ケトン体の過剰産生を抑制する防御的な働きを持つ可能性が考えられた。