日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S15-5
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放射線被曝と毒性学における課題・・福島原発問題を契機として
リスク評価から見た放射線毒性学
*菅野 純
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抄録

大量ではほぼ全員が肝不全により死亡、微量では用量依存的に肝がんが増加する、というのは遺伝子障害性発がん物質のアフラトキシンの毒性である。この用量作用関係は電離放射線のそれと類似している。これも最終的にラジカルなどの化学反応が生体分子を修飾して毒性を表すので共通性は当然存在する。1mGy程の低線量を前照射する(Tickle dose)と、その後の放射線障害を緩和する。化学物質でも、少量を前投与するとその後の投与の影響が変わる事は、紀元前2世紀の王様が毒物による暗殺に備えて少量の毒物を摂取するなど、太古から知られている。
 しかし、放射線には化学物質には無い「魔術性」がある。例えば、抗がん剤のメトトレキセートが慢性関節リウマチに効くことから、現在「リュウマトレックス」と名を変えて処方されている。他方、放射線も効果を示すと報告されており、それを引用して低線量の放射線が体に良いという宣伝がなされている。さらに「だから、普通の健康な人にも良い」と言う者がいて、それをマスコミが取り上げる。しかし、抗がん剤であるメトトレキセートを健康な一般人に勧めることはないし、マスコミもその様な報道をしない。
 既存の科学的データからリスクを評価する。データ不足は適切な仮説で補われる。閾値設定の適否もこれに含まれる。その結果に基づいて施策を決め措置を取るのがリスク管理である。本来、リスク評価は毒性専門研究者が、リスク管理は行政担当者が扱う。しばしば両者が共同で管理を実施したための弊害が指摘され改善が叫ばれているが、放射線はこれに逆行した様である。放射線の魔術性という特殊性はここにも影響していると思われる。
 この魔術性を打破する事は国民の放射線影響に対する理解を深める為に必要であると考える。その為には「放射線毒性学」に於いて、化学物質と放射線の毒性を対等に扱う毒性学問領域の存在意義を広め、その研究を進めることを提案する。

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© 2012 日本毒性学会
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