日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-1
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生態毒性試験生物の基礎研究
ミジンコの毒性、基礎研究について
*花里 孝幸
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抄録

湖沼プランクトンのミジンコを用いた生態毒性試験は、薬剤影響を個体レベルで評価している。そのため、その試験条件はミジンコが生活している自然環境と異なる。なぜなら、ミジンコたちは湖で個体群をつくり、また別種の生物と相互関係(競争や捕食・被食関係)を持ちながら共存している。そこで湖沼に有害化学物質が流入すると、その物質は、生物相互関係を介して複雑な影響をミジンコに与えると考えられる。その影響を解析するために行った実験結果を紹介する。
 水槽の中にプランクトン群集を作り、そこに殺虫剤カルバリルを投与して、群集の変化を調べた。すると、大型ミジンコが姿を消し、小型ミジンコが増えた。これは大型種ほど殺虫剤に弱いことを示している。ところが、この殺虫剤を用いた生態毒性試験の結果は、大型ミジンコの方が小型ミジンコよりも高い耐性を持っていることを示した。これは、個体群レベルと個体レベルの間で薬剤影響が異なることを示している。その理由として、ミジンコ個体群が殺虫剤の悪影響を受けて密度を減らした後の個体群の回復速度が小型ミジンコの方が高かったことが考えられる。
 次に水槽に作ったミジンコ類とワムシ類の群集を複数作り、その一部の水槽に捕食者のケンミジンコを入れ、全ての水槽に殺虫剤を投与した。すると、捕食者の存否に応じてワムシ個体群密度が大きく変化した。プランクトン群集への殺虫剤影響には、生物たちの相互作用が大きく関与していることが分かった。
 捕食者が水中に匂い物質を放出しており、それにミジンコが反応して喰われないように形態を変えることが明らかになった。この匂い物質と共に、微量な殺虫剤(毒性試験での無影響濃度)をミジンコにさらすと、ミジンコの防御形態がより大きくなり、このコストとして増殖速度が低下することを見いだした。湖における捕食者とミジンコのケミカルコミュニケーションを、微量な殺虫剤が撹乱したといえる。

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© 2012 日本毒性学会
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