日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-2
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生態毒性試験生物の基礎研究
ミミズの生物学と分子生物学
*蒲生 忍
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抄録

ミミズは、環形動物貧毛綱に属する雌雄同体の土壌動物である。チャールズ・ダーウィンはその絶筆『ミミズと土』で、ミミズが植物の生育に適した肥沃な土壌の形成に大きな役割を果たしていることを示した。また、レィチェル・カーソンは社会的に大きな影響を与えた『沈黙の春』の中でダーウィンを引用しつつ、ミミズによる農薬の生体濃縮とコマドリの死を関連付けている。
 ミミズを環境指標として捉える場合、その生態の理解と種の同定は必須である。日本に広く分布するのは温暖な気候を好むフトミミズ属Megascolecidaeが主であり、冷涼な気候を好みヨーロッパ・北米に主に分布するツリミミズ属Lumbricidaeは少ない。フトミミズは主に初夏に地表に現れ産卵し、一年性で越冬する種は稀である。従って、カーソンの生体濃縮仮説は少なくともフトミミズでは成立しにくい。また、ミミズは一般に外形的な特徴に乏しい中で、フトミミズ属では雌雄の性孔や性徴、さらに体内の貯精嚢や腸盲嚢等の数や形態に多様性があり分類指標とされる。しかし、それぞれの指標の変異の幅が明確ではなく、国内の種数や分布の詳細は明らかではない。
 フトミミズが一般に飼育困難なのに対して、ツリミミズ属シマミミズEisenia foetida (Savigny, 1826) は繁殖力が強く室内での周年飼育が可能である。実験的利用に適しており、OECDやISOの国際規約で毒性評価の指標動物として取り上げられている。ミミズを環境指標として捉えるにしても実験動物として捉えるにしても、その生物としての理解に加えて、分子生物学的資源と情報を整備することが必須であり、近道である。我々は、フトミミズの生態と分布を明らかにするための簡便な分類法の確立を目指してミトコンドリアrDNAの塩基配列と形態的指標との相関を検討した。また、遺伝子検索の基盤としてシマミミズ精嚢からゲノムDNAを抽出しBACライブラリーを作成し、メタロチオネインを含め幾つかの遺伝子を単離した。我々のささやかな試みの一端を紹介したい。

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© 2012 日本毒性学会
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