抄録
化学物質のリスク評価に不可欠な有害性の評価において、反復投与毒性は対象とする化学物質の毒性学的性状を明確化する重要な判断根拠である。この反復投与毒性の情報を得るためには、多額の費用と時間を要する動物試験が実施されているのが現状であり、in silicoで評価する手法やシステムへの期待が高まっている。しかし、反復投与毒性は多様なエンドポイントが対象であり、さらにまた、それらのデータの欠落があるためにこれまでシステム化することが困難であった。我々は、これらの課題の解決を目指して、カテゴリーアプローチ等の手法が実施可能な有害性評価支援システム(Hazard Evaluation Support System, HESS)を開発した。
本システムには、有害性評価の根拠になる反復投与毒性の試験情報や発現した毒性の作用機序情報を収載した毒性知識情報データベースと、対象とする化学物質の生体内での代謝および動態に関して整理した代謝知識情報データベース(ADME DB)が搭載されている。さらに、これらのデータベースを統合して、検索およびユーザデータの登録を行うシステムとしてHESS DBを開発した。
化学物質の反復投与毒性情報の多くが実験動物のデータから得られていることから、ヒトに対する有害性評価のためには、ヒトと実験動物の種差を検討することが必要である。ADME DBは、この種差検討を支援することを目的とし、ヒトおよび実験動物におけるADME情報を比較できるようにしている。HESS DBでは、物質名やその構造を検索条件として試験情報ほかの各データを検索するほか、血液などの検査データ、組織病理所見データといった毒性のエンドポイントからの検索によって、類似の毒性を示す物質を検索することができる。
今回は、「ADME DBとHESS DBの開発」として、それぞれの開発の経緯とともに、公開されるシステムの概要について、HESS DBを使った実際の操作を交えて紹介する。