抄録
私共は,アポトーシス制御性因子やがん細胞特異的エネルギー代謝を標的とした新規制がん剤の創製を目指して研究を行っている.Glyoxalase I (GLO I)は,解糖系代謝副産物Methylglyoxal (MG)の解毒反応の律速酵素であり,種々のがんや抗がん剤耐性培養がん細胞株で高発現していることが報告されており,新しいがん治療薬開発のターゲットとして有望視されている.有機ビスマス化合物は,金属酵素ureaseを阻害して抗菌活性を示すものとして知られており,細胞死誘導能を示す化合物も報告されているが,その作用機序は未だ不明である.そこで,有機ビスマス化合物が金属酵素であるGLO Iを阻害し,細胞死(アポトーシス)を誘導するか否かを解析し,制がん剤リード化合物としての有用性を検討した研究について紹介する.
数種の有機ビスマス化合物について,GLO I酵素反応生成物S-D-Lactoylglutathione の240 nmにおける吸光度測定によるin vitro assayで,GLO I阻害活性を評価した.その結果,高いGLO I阻害能を示す化合物YAK08-05を見出した(IC50 = 0.3 μM).さらに,GLO I阻害剤高感受性肺がん細胞株NCI-H522細胞と低感受性肺がん細胞株NCI-H460細胞を用い,YAK08-05の細胞生存率への影響を比較した.YAK08-05は,GLO I阻害剤低感受性NCI-H460細胞に比べて,GLO I阻害剤高感受性NCI-H522細胞の方に対してより強い細胞死誘導能を示した.このことから,YAK08-05による細胞死誘導にはGLO I阻害が寄与することが示唆された.有機ビスマス化合物の細胞死誘導能は,そのアンチモン置換体では消失するという報告があることから,YAK08-05のアンチモン置換体についても検討したところ,アンチモン置換体はGLO I阻害活性を有さず,細胞死誘導能も示さないことが明らかとなった.