抄録
ナノマテリアル(NM)の使用は多くの産業で広がり続けており、2015年にはその世界市場が50兆円に達するとの予想もされている。一方で、PM2.5といった環境中微粒子への曝露が、アレルギーの悪化等、様々な健康被害を引き起こすことは疫学的な事実であり、微粒子状素材であるNMの安全性に対する詳細な評価が急がれている。微粒子がNLRP3インフラマソームを介した起炎性を発揮することが明らかとなって以降、微粒子による健康影響に対して、自然免疫を介した起炎性による説明が試みられてきた。本観点から、NMの安全性研究においても、自然免疫系との関連が多く研究されている。一方で、微粒子により誘発される病態の多くが未だに解明できない現状においては、微粒子に対する新たな免疫作用の可能性を考慮することが、NMの安全性確保においても重要であろう。本検討では、これまで全く解析されてこなかった、微粒子そのものに対する獲得免疫誘導の可能性(感作性)を、その抗菌作用から広く使用されるナノ銀粒子(nAg)をモデルに評価した。一般に、ハプテンや金属イオンなどの感作性物質を曝露後、再度同様の物質に曝露すると、獲得免疫により炎症反応が増大する。そこで本検討では、nAgを投与後、再度nAgを曝露した際(惹起投与)の炎症反応を指標として、nAgに対する獲得免疫誘導の可能性を評価した。その結果、nAgを事前に曝露した群において、非曝露群よりも強い投与部位(耳介)の腫脹が観察された。また、nAg投与とは異なり、銀イオンの投与では腫脹は観察されなかった。従って、nAgに対する起炎性の増強は、銀イオンに対する金属アレルギー応答ではなく、nAgそのものに対して獲得免疫応答が誘導された結果であることが示唆された。現在、nAgの獲得免疫系による認識機構をより詳細に追究し、獲得免疫系による微粒子認識の証明を試みている。