抄録
妊婦の喫煙は胎児の発達だけでなく、出産後の子供の発育にも様々な悪影響を及ぼすことが明らかにされている。特に、注意欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害、不安障害などの精神神経疾患の発症と密接に関連することが報告されている。例えばSchmitzらは、妊婦の喫煙によりアメリカにおけるADHD児が27万人以上増加したと試算している。このような妊婦の喫煙の発達神経毒性は主としてニコチンの副作用であることが明らかにされている。しかし、ニコチンによる発達神経毒性の分子機構に関しては依然として不明な点が多く残されている。また、ニコチン性アセチルコリン受容体の作動薬が禁煙補助薬として臨床で使用されているが、この禁煙補助薬の発達神経毒性に関しても不明な点が多い。
本研究では、ニコチン性アセチルコリン受容体のサブタイプを、人工酵素TALエフェクターヌクレアーゼ (TALEN)を用いたゲノム編集によりノックアウトしたゼブラフィッシュを用いて、ニコチンの発達神経毒性を評価した。具体的には、受精後8時間より96時間まで、ニコチンまたはニコチン受容体部分作動薬を様々な濃度でノックアウトゼブラフィッシュに曝露した。受精後7日目に外表奇形を認めない最高濃度を決定し、その濃度よりも低い濃度で曝露したゼブラフィッシュの行動を、光の明暗変化や、てんかん誘発薬曝露に対する運動量の変化を指標として定量的に解析した。その結果、ニコチンの発達神経毒性機構解析における遺伝子改変ゼブラフィッシュの有用性を明らかにしたので報告する。