抄録
医薬品開発における非臨床安全性試験のうち安全性薬理試験(SP)は一般的にはSPガイドラインに基づき実施されているが,「医薬品の臨床試験および製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」の2010年改正によって一般毒性試験にSPのエンドポイントが組み込まれつつある。心血管系のSPには主に大動物を用いてテレメトリー送信器を体内に埋め込み,無麻酔・非拘束条件下にて血圧,心拍数および心電図を評価するテレメトリー(TM)法がある。TM法は外科的処置,TM測定用の専用ケージおよび受信機を備えた実験室が必要であることから,心血管系評価を一般毒性試験に組み込む場合には別の方法を考えなければいけない。その方法として動物を拘束して血圧を測定する非観血式血圧測定法があるが,この方法はTM法と同程度に血圧への影響を検出できるが,経時的測定が困難である。心電図測定には無麻酔・非拘束条件下で測定可能なホルター心電図が有用で,外科的処置が不要な体外ジャケット式TMシステムは前述のTM法と同等の精度で心電図への影響を評価することができるが,実験室への実験者の入室だけで心拍数が増加するので,TK採血日は避けるべきである。呼吸系のSPは大動物では呼吸数およびヘモグロビン酸素飽和度などを指標に評価されるが,呼吸数は目視での評価となる。中枢神経系のSPは小動物と大動物の双方で評価できるが,大動物では初回投与日にTK測定用に採血することが多く,その影響が現れる。このように一般毒性試験へのSPの組み込みにはデメリットもあるが,反復投与による影響も評価することができ,また,病理組織学的変化やTK結果とSPの結果を関連付けることができる。したがって,SPを組み込んだ複合型毒性試験の実施の是非を当該開発品の既存の非臨床データを評価してケース・バイ・ケースで慎重に判断する必要がある。