抄録
近年,創薬研究における開発候補化合物のヒト動態特性の予測は,効率的な医薬品開発に欠くことのできないタスクの一つと考えられている.創薬初期におけるヒト動態予測は,リード化合物の創製,開発候補化合物の選出に有用な情報であり,さらに,前臨床から臨床に移行する局面では,第Ⅰ相試験における開始投与量の妥当性および上限用量の見積りに有用な情報を与える.また,薬効発現および毒性発現における動物種差を考慮する必要はあるものの,開発候補化合物のヒト動態予測と実験動物におけるPK-PDまたはTK-TD解析を統合することにより,前臨床段階で臨床有効用量の見積り,ヒトでの安全域の考察に利用することも可能であると考えられる.一方,前臨床段階でのヒト動態特性の予測は,これまで主流であった実験動物データを用いた方法(アニマルスケールアップ/アロメトリックスケーリング)から臓器・組織を血流で繋ぎ,各部位における薬物濃度変化を数学的に表現する生理学的薬物速度論モデル(PBPKモデル)を用いた方法に移行しつつある.また,PBPKモデルによる動態予測は,生理学的パラメータ(臓器重量,血流量など),化合物の物性情報(分子量,LogPなど)およびin vitro試験結果(代謝安定性,血漿タンパク結合率など)を用いて実施するため,その用途は健常人における体内動態の予測に加え,生理学的パラメータ,薬物代謝能などが著しく変動する病態時(肝機能低下,腎機能低下)および多剤併用時(薬物相互作用の予測)の動態予測まで広がる.
本発表では,PBPKモデルを用いたヒト体内動態予測の特徴およびその予測精度に関して報告する.また,ヒト体内動態予測の安全性担保を含めた種々局面での使用例を紹介する.