抄録
【目的】酸化ストレスを発生する化学物質は環境中に多数存在するものの、それらの複合暴露による生体影響、特にその加算性については未解明な部分が多い。そこで今回、ラット腎発がん物質であり、その発がん機序に酸化的DNA損傷を起点とした変異原性誘発の関与が疑われている臭素酸カリウム(KBrO3)と腎臓の酸化的DNA損傷は増加させるものの変異原性は有さないアリザリン(Alz)をgpt deltaラットに併用投与して、酸化的DNA損傷並びに遺伝子突然変異への複合影響について検討した。【方法】6週齢の雄性F344系gpt deltaラットに250あるいは500 ppmの濃度のKBrO3を13週間飲水投与し、同時に500 ppmの濃度のAlzを混餌投与した。また、基礎食と蒸留水を投与した対照群に加え、高用量のKBrO3あるいはAlz単独投与群を設けた。投与終了後、腎臓DNA中の酸化的DNA損傷の指標である8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)の定量解析並びにgpt及びSpi-遺伝子突然変異体頻度(MF)の検索を行った。【結果】KBrO3単独投与群において8-OHdG量の有意な増加並びにSmall deletionを特徴とするgpt及びSpi- MFの用量依存的な増加を認め、Alz単独投与群においては8-OHdG量が有意に増加した。一方、KBrO3及びAlzの併用投与群では8-OHdG量の加算的な増加を認め、gpt MFはKBrO3単独投与群と変わらないものの、KBrO3 500 ppmとAlzの併用投与群においてSmall deletionに加え、1 kb以上のLarge deletionを特徴とするSpi- MFの顕著な増加を認めた。【考察】KBrO3及びAlzの併用投与により8-OHdG量の加算的な増加を認め、遺伝子突然変異においてはSmall及びLarge deletionを特徴としたSpi- MFの増加が認められた。このことから、酸化ストレス発生剤の併用投与により酸化的DNA損傷が加算的に増加することが明らかとなり、その結果、欠失サイズの増加を伴う遺伝子突然変異が誘発される可能性が示された。