抄録
これまでに、コラーゲンビトリゲル膜(以下CVM)チャンバーを用いてヒト肝がん細胞株であるHepG2 細胞の肝機能を迅速に賦活化する培養法を開発した。具体的には、CVMチャンバーの下面に脱着可能なPETフィルムを付着することでCVM下を固相として、チャンバー内に培養液に懸濁したHepG2 細胞を播種して「液相-固相」の界面で2日間培養した。その後、CVMチャンバーの下面よりPETフィルムを取り外して12-wellプレートのwellに装着することでCVM下を気相として、さらに「液相-気相」の界面で1日間培養した。3日間培養したHepG2細胞は、毛細胆管様構造を呈するとともに、アルブミン産生や尿素合成のみならず薬物動態(ADME)関連の肝機能も賦活化することが分かった。
本研究では、上述のように3日間培養してCVMチャンバー内で肝機能を賦活化したHepG2細胞の培養液にモデル薬物としてFluorescein Diacetate (FD)を添加し、その代謝物であるFluoresceinが細胞間の毛細胆管様構造へ蓄積されたことを確認した。その後、CVMチャンバーをヒト胆管がん細胞株であるTFK-1細胞を単層培養した培養皿内および培養液のみを注いだコントロール培養皿内に移し入れて、Fluoresceinの排泄について解析にした。その結果、コントロール培養皿に比べTFK-1細胞との共培養システムは、HepG2 細胞からのFluoresceinの排泄量およびTFK-1細胞側へのFluoresceinの排泄割合を向上することが分かった。本研究で開発した「肝機能を賦活化したHepG2 細胞とTFK-1細胞の共培養システム」は、今後、短期間で薬物のヒト型肝代謝排泄物を解析する培養ツールとして有用性を検証する研究に発展すると期待された。