抄録
ナノマテリアルの安全性を総合的に評価するために,生殖・発生毒性に関する情報は非常に重要である.我々はこれまで,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を妊娠マウスに単回あるいは反復気管内投与し,催奇形性の評価を行ってきた.これまでの結果では,妊娠9日のマウスに3 mg/kg以上のMWCNTを単回気管内投与すると胎児の奇形がみられたが,妊娠6日~15日の期間に合計8 mg/kg(2 mg/kg×4)のMWCNTを反復気管内投与しても,胎児の奇形はみられなかったことから,投与時期が奇形の発現に重要な影響を与えていることが示唆された.そこで今回の試験では,これまでの試験よりも高用量(4 mg/kg)のMWCNTを妊娠9日のマウスに単回投与あるいは妊娠6,9,12,15日にそれぞれ同用量を反復気管内投与し,妊娠17日に帝王切開して母動物および胎児への影響について比較した.本試験では,各群11匹以上の母動物を評価に用いた.単回・反復気管内投与試験ともに,母動物への影響として摂餌量の減少に伴う体重増加抑制がみられ,MWCNTの投与による影響と考えられた.胎児への影響としては,単回・反復気管内投与試験ともに胎児体重が低値を示し,MWCNTの投与による胎児の発育抑制が示唆された.さらに,単回投与試験においては,外表異常を伴う胎児が4(5.1%)例みられた.所見としては,小肢,欠指,曲尾および短尾が認められ,小肢,欠指および短尾は同一腹での発生であった.一方,反復投与試験においては,単回投与の4倍の用量のMWCNTを投与したにも関わらず,胎児の外表異常はみられなかった.今後は,MWCNTの単回気管内投与と反復気管内投与による胎児への影響発現の差異について,更に詳細なデータ解析を行う予定である.