抄録
【目的】 S100A8/A9(カルプロテクチン)はS100ファミリーに属するタンパク質であり,炎症性腸疾患のバイオマーカーとして知られている.しかし,その構成成分であるS100A9モノマータンパク質については十分に検討されていない。今回,我々はS100A9に対するモノクローナル抗体を作製し、S100A9測定用サンドイッチ型ELISAを構築した。本研究においては,このELISAを用いてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導潰瘍性大腸炎(UC)モデルラットの糞便中S100A9を測定し、UCに対する新規バイオマーカーとしての有用性を明らかにする.
【方法】 SDラット(6週齢、雄)を1週間馴化後、3%(w/v)DSS水溶液または、純水を11日間自由飲水させた群を,それぞれDSS投与群(D群)及び対象群(C群)とした。便は両群ともに毎朝採取し,便中S100A9濃度はELISAで測定した.同時に,体重測定、Disease Activity Index(DAI)スコア判定も実施した。また,投与最終日に大腸(結腸~直腸)を摘出し、大腸の長さと湿重量を測定することにより比重を算出した。
【結果】 D群ラットにおいて,血便及び大腸の肥厚がそれぞれDay6及びDay10で観察された。一方、便の単位重量(1 mg)当たりのS100A9量は投与日数の経過に伴い上昇し,Day2以降においてC群より有意に高値を示した。以上の結果から,少なくともUCのバイオマーカーとして,S100A9はDAIスコアより優れていた。
【結語】 我々が開発したUCラット糞便中S100A9測定用ELISAは,炎症性腸疾患の早期検出においてDAIスコアによる判定よりも有効であり,かつ客観的な評価方法である。