抄録
化学物質の有害性評価の一つに発がん性試験がある。通常、がんは化学物質投与後半年以上を経て形成されるため、長期間の動物実験が必要となり、費用も膨大なものとなる。このため、短期動物試験と組み合わせた高精度の発がん性予測システムの開発は有益である。一方、化学物質が引き起こす肝発がんに関して、いくつかの作用様式があると考えられているものの、遺伝子レベルでの発がんメカニズムはほとんど解明されていない。そこで、我々は化学物質の肝発がん性を遺伝子発現データから精度よく予測するため、多様な化学物質の遺伝子発現データを統計学的に解析し、予測マーカーとして有効な遺伝子(群)を見出すことを試みた。そして、Toxicogenomics Project-Genomics Assisted Toxicity Evaluation system (TG-GATEs)から入手可能な遺伝子発現データを用いて構築した肝発がん性予測システムを報告(Yamada F et al.: J. Appl.Toxicol.(2012) 33: 1284-129 )した。
本研究では、更に遺伝子発現データを追加し、最終的に93化合物(肝発がん性物質:41化合物、非肝発がん性物質:52化合物)の遺伝子発現データを用いて肝発がん性予測システムを再構築した。以前の報告と同様に93化合物をランダムに20通りに分割し、それぞれの化合物群について遺伝子発現データをサポートベクターマシン(SVM)で解析して予測に有効な遺伝子のリストを作成した。得られた20個のマーカー遺伝子リストのうち、少なくとも2つのリストに含まれる42遺伝子を用いて予測システムを再構築したところ、改良前よりも良好な予測結果が得られた。また、これらの遺伝子を用いてネットワーク解析を実施した結果、42遺伝子中24遺伝子を包含するネットワークが構築され、発がんに関わる可能性が高いと考えられる遺伝子が多く含まれていた。