抄録
【目的】薬剤によるミトコンドリア障害は、肝臓や骨格筋、心筋、神経系などでの主要組織における毒性発現の1つの要因と考えられている。ミトコンドリア障害と毒性発現との明確な関連性は未だ明らかになっていないが、ミトコンドリアはエネルギー代謝において重要なオルガネラであるため、エネルギー代謝経路への影響が毒性発現の1つの要因になっていることが推測される。本研究では、ミトコンドリア障害性を有する化合物が短期的に引き起こすエネルギー代謝経路への影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】Rotenone、FCCPもしくはウスニン酸を1時間、4時間ならびに24時間曝露させたラット初代培養肝細胞を用いて、UHPLC/MS/MSならびにGC/MSによるメタボロミクス解析を実施した。また細胞障害性評価としてLDH漏出量と細胞内ATP含量を測定した。
【結果】3つの化合物いずれにおいても、曝露1時間後からLDH漏出を伴わないATP含量の低下が認められたが、曝露24時間後ではその低下は軽減した。メタボロミクス解析では、グリコーゲンの減少に伴って解糖系ならびにTCA回路の代謝物の減少、胆汁酸生成の抑制、酸化ストレスを示唆する代謝物の変化が見られた。Rotenoneのみで見られた変化は、曝露1時間後でNAD+ salvage経路とリシン分解経路の代謝物ならびにBHBAの増加があり、FCCPならびにウスニン酸のみで見られた変化は、曝露1時間後でBHBAの低下、曝露24時間後でいくつかの未同定代謝物の増加があった。以上より、ミトコンドリア障害に共通した代謝物の変化とともに、ミトコンドリア障害のタイプに基づく代謝物の変化が認められた。これらの代謝物の変化がミトコンドリア障害を示唆するマーカーとなる可能性があるとともに、ミトコンドリア障害による毒性発現メカニズム解明に有用と考えられる。