抄録
諸言: Wistar Han系ラットは近年毒性試験に用いられるようになってきたが、この系統の背景病変、特に長期飼育における自然発生病変の理解は十分でなく、さらなるデータの蓄積が求められている。我々は、Wistar Han系ラットの長期飼育下における自然発生病変を観察したので、報告する。
実験材料・方法:動物は、(株)日本医科学動物資材研究所より5週齢で購入した40匹のRccHan:WIST系雄ラットであった。これらは、当センターで実施した毒性試験の対照群及び無処置群にそれぞれ20匹使用したもので、10週齢から実験に供して実験終了時に104週齢から110週齢に達していた。全臓器及び肉眼的に認められた腫瘤部位を10%中性緩衝ホルマリン液にて固定し、HE染色及び必要に応じて免疫組織化学的染色を行い、光学顕微鏡的に観察した。
結果・考察:実験終了時、対照群及び無処置群の生存率は、それぞれ90%及び84%であった。腫瘍性病変は内分泌器官において発現頻度が高く、特に頻度が高かったものは下垂体前葉の腺腫(30.8%)、膵島の腺腫(23.1%)、副腎の褐色細胞腫(7.7%)であった。これらの発現頻度は、同系のラットを用いた他の報告における結果と類似していた。各腫瘍の発生率について当センターにおけるF344系ラットの背景データと比較すると、膵島の腺腫(23.1%対11.4%)および胸腺腫(10.3%対0%)等が多い一方で、精巣の間細胞腫(5.1%対57.1%)が少なかった。また、非腫瘍性病変については、甲状腺傍濾胞細胞の過形成、リンパ節の肥大、総胆管の拡張、肺胞マクロファージの集簇、外涙腺のハーダー腺様変性等が高頻度に認められた。これらについても、当センターのF344系ラットの背景データや既報のWistar Han系ラットのデータと比較検討した。