抄録
近年、「標的mRNAを分解するタイプのアンチセンス(= Gapmer型アンチセンス)」の開発が進んでいる。2013年に全身投与性の核酸医薬品として初めて上市されたMipomersen(商品名Kynamro:ApoB-100を標的とする高コレステロール血症治療)もGapmer型アンチセンスであり、その有効性は実用化のレベルに達している。一方で、Gapmer型アンチセンスはmRNAを標的とするため、標的以外のmRNAと相補的に結合し発現を抑制する「相補結合依存的オフターゲット効果」のリスクが懸念される。しかし、Gapmer型アンチセンスのオフターゲット効果に関する解析は殆ど行われておらず、現状ではオフターゲット効果のリスクを判断する科学的根拠は存在しない。
そこで本研究では、この点を解決するため、「Gapmer型アンチセンスとどの程度の相補性を有するmRNAが影響を受けるのか」について検証した。本解析では、eGFP mRNAを標的とする抗eGFPアンチセンスとeGFP安定発現ヒト細胞を用いて、ヒト細胞に内在的に発現する遺伝子への影響を検討した。まず、eGFP mRNAに対して考えられる全てのアンチセンス配列(13、15、18塩基長)を設計し、in silico解析によってアンチセンスと相補性を有する遺伝子(=オフターゲット候補遺伝子)の数を調べた。さらに、オフターゲット候補遺伝子数が多い抗eGFPアンチセンス配列を約100本抽出して合成した後、eGFP発現ヒト細胞を用いたin vitro解析を行い、eGFP mRNAを効率よく分解するアンチセンスを8本に絞り込んだ。次に、これらの抗eGFPアンチセンスを各々eGFP発現ヒト細胞に導入し、内在的に発現する遺伝子の発現変動をマイクロアレイにより網羅的に解析した。この結果、13、15、18塩基長のGapmer型アンチセンスのいずれにおいても、明確なオフターゲット効果が観察され、アンチセンスとミスマッチ等を有するmRNAであっても有意に影響を受けることが明らかになった。本発表では、「どの程度の相補性を有するmRNAがどの程度の発現抑制を受けるか」について具体的な数値を議論したい。