抄録
独立行政法人製品評価技術基盤機構化学物質管理センターでは、既存化学物質の評価促進に資することを目的として、環境中に放出されている可能性のある約1000物質について、有害性情報等を収集整理し、データの信頼性に応じた有害性評価手法を考案すると共に、リスクレベルについての暫定的な評価を行った。評価対象の有害性は、一般毒性、遺伝毒性、生殖発生毒性及び発がん性とし、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)のスクリーニング評価手法を準用して実施したが、現時点では情報の収集と整理を優先し、無毒性量等の判断や遺伝毒性の評価においては極力、専門家判断に頼らない手法とすることを目指した。対象物質の中には、混合物、CAS番号不明、1つの化審法整理番号の中に数物質から千を超える物質が混在する物質群など、評価の単位を決定することが困難なものが含まれ、調査対象とした情報源に情報がないものも多かった。不足情報の補完手段として、企業に情報の提供を依頼し、また、一般毒性については当機構で開発したHazard Evaluation Support System(HESS)を、遺伝毒性についてはOECDで開発されたQSAR Toolboxを利用した。これらのツールは物質のカテゴリー評価やRead-across評価を行うエキスパート・ジャッジをサポートするin silicoシステムであるが、一定の手順書を作成して評価手法の透明性を確保した。一般毒性では、動物試験から得られる無毒性量等を不確実係数の積で除した有害性評価値を算出し、リスクレベルの暫定評価を実施したが、HESSを用いた場合の不確実性に対応するため、新たな不確実係数導入の要否を検討した。その結果、物質内及び物質間の最も低い無毒性量等を採用することで、追加不要と考えた。収集した全ての情報と暫定評価の結果は当機構のHPから公開する予定である。