抄録
【目的】メチルニトロソ尿素(MNU)は細胞増殖抑制作用を有するアルキル化剤であり、我々はこれまで、妊娠後期のラットないしマウスへの短期間投与により、離乳時の児動物の海馬歯状回(DG)におけるニューロン新生及び歯状回門のGABA性介在ニューロン分布に影響を与えることを見出している。一方、このような神経幹細胞ないし前駆細胞を標的にする物質の妊娠・授乳期の長期間暴露による児動物のニューロン新生への影響及びその持続性は不明である。そこで本研究では、MNUの発達期暴露によるDGにおけるニューロン新生障害性評価のために以下の実験を行った。【方法】ICRマウスに妊娠6日から出産後21日までMNUを0、12、24 ppmの濃度で飲水投与し、児動物を生後21日及び77日に屠殺した。【結果】雄性児動物において、出生時から生後35日齢まで、投与群で体重が減少した。生後21日齢の児動物において、投与群で脳の絶対重量が減少した。免疫組織化学的検索により、顆粒細胞層下帯(SGZ)の細胞分化指標として、生後21日の24 ppm群で幹細胞指標であるbrain lipid binding protein (BLBP)陽性細胞が増加した。その後の分化段階の指標であるSox2、T-box brain protein 2及びdoublecortin陽性細胞数は変動しなかった。また、PCNA陽性細胞及びTUNEL陽性アポトーシスも変動しなかった。歯状回門のGABA性介在ニューロンは、いずれの投与群においても変動しなかった。生後77日ではBLBP陽性細胞は変動しなかった。【考察】MNUの発達期暴露により、幹細胞が増加した一方で細胞増殖及びアポトーシスには影響を認めなかったことから、MNUの暴露により一部の幹細胞の分化が障害され、幹細胞のまま留まっている可能性が示唆された。生後77日齢では変動しなかったことから、この障害性は可逆的なものと考えられた。歯状回門のGABA性介在ニューロンはSGZの分化中期から後期の前駆細胞に入力することから、本実験では変動がなかったと考えられた。