日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-37
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優秀研究発表 ポスター
チオール依存的なセレンのがん細胞内取り込みによる障害作用
*戸邊 隆夫松田 詩乃岡本 誉士典植田 康次小嶋 仲夫
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抄録
【目的】セレン(Se)は、必須微量元素としての生理的作用に加え、過剰量では腫瘍増殖抑制などの薬理的作用を示す。しかしながら、薬効濃度から毒性発現濃度までの有効濃度域が狭く、その活用には毒性発現機構の解明が必要である。セレノジグルタチオン(GSSeSG)はSeにグルタチオン2分子が接合したSe代謝中間体であり、Seの細胞障害作用において重要な役割を担っていると考えられている。われわれはこれまでにGSSeSGが生理的濃度のグルタチオンと反応することでDNAの一本鎖を切断することを明らかにしている。本研究では種々のセレノジチオール化合物(RSSeSR)を用いて、Se化合物のがん細胞障害作用におけるチオールの役割について検討した。
【方法】RSSeSRは、酸性条件で亜セレン酸とチオール化合物RSHを1:4で反応後、HPLCにて分離精製。ヒト乳がん細胞株MCF-7の生存率は生細胞特異的蛍光試薬を用いて測定。細胞内Se蓄積量はICP-MSにて定量。アポトーシス誘導率はアネキシンV染色により測定。核DNA損傷はコメットアッセイにより、プラスミドDNAの一本鎖切断は電気泳動像により定量。
【結果および考察】亜セレン酸処理群では今回用いた濃度域において細胞増殖を抑制しなかったが、GSSeSGおよびセレノジペニシラミン(PenSSeSPen)処理群では濃度・時間依存的に細胞生存率が低下した。さらにGSSeSGは濃度依存的に核DNAの損傷およびアポトーシスを誘導した。この時、GSSeSGおよびPenSSeSPen処理群において顕著に細胞内Se蓄積量が上昇したが、亜セレン酸処理群ではSe量に変化は見られなかった。しかし、シスチントランスポーターxCTを阻害するとGSSeSGによる細胞内Se蓄積は抑制され、細胞生存率は上昇した。したがって、Se化合物によるがん細胞障害作用には、Se化合物がチオールと反応することでRSSeSRを形成し、がん細胞で高発現しているxCTを介して細胞内にSeを送達することが重要と考えられる。
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© 2015 日本毒性学会
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