抄録
【背景・目的】医薬品開発において候補化合物の催不整脈作用,特に心電図におけるQT間隔延長作用を評価することは必須である.薬剤のQT間隔の延長メカニズムは主に2種類に大別される.1つは薬剤が心筋活動電位の再分極を担うK+電流(IKr)を減少させるIKrブロック作用,もう1つはIKrを生み出す細胞膜上のhERGチャネルタンパク質を減少させる細胞内輸送(hERG trafficking)阻害作用と再分極予備力の減少である.IKrブロック作用は比較的短時間の曝露で確認できる一方,hERG trafficking阻害作用はhERGタンパク質の代謝・生合成に関わるため、その評価には被験物質を長期間曝露する必要がある.そのため,hERG trafficking阻害作用を動物実験により評価することは難しいとされている。近年,iPS細胞技術が開発されたことにより、ヒト由来の心筋細胞を用いることが可能になった.そこで本発表ではhERG trafficking阻害作用が知られる化合物について、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた検証を試みた.
【方法】ヒトiPS細胞由来心筋細胞はiCell cardiomyocytes(CDI社)を用いた.被験物質としてhERG trafficking阻害作用を有することが知られるProbucol,Pentamidine,Brefeldinを用いた.これらの薬剤をiCellに曝露し,曝露後10分,8時間,24時間,48時間の各時点で細胞外電位を10分間測定した.その後,hERG阻害剤として知られているE-4031を各濃度10分間漸増適用し,細胞外電位を取得した. FPDcF(細胞外電位持続時間)の変化やK+電流によって形成される2nd peakの電位変化,またEAD(早期脱分極)の発生の有無について注目した.
【結果・考察】48時間曝露後,媒体群と比較してFPDcFの延長や2nd peakの減少が確認された.その後E-4031を適用した結果,hERG trafficking阻害薬群において、媒体群よりも低い濃度でEADが確認された.以上の結果より,ヒトiPS細胞由来心筋を用いてhERG trafficking阻害作用を検出できることが示唆された.また,hERG trafficking阻害剤とhERG阻害剤との併用により、ヒトiPS細胞由来心筋の再分極予備力が低下し,IKrブロッカーへの感受性が増加することが示唆される知見を得た.