抄録
新薬開発失敗要因の上位を占める副作用は多岐に亘るが、今や肝毒性を抜いて心毒性が研究開発~上市後の何れのステージにおいても20~30%近くを占める。その心毒性の内訳としては、特に1997年以降世界的に注目された適応症・治療標的を問わず幅広い領域の薬剤に共通して確認されたhERG K+チャネル阻害を介した心電図QT延長を伴う致死性不整脈(TdP)が全体の3割を占めるが、残り7割はhERG K+ チャネル直接阻害以外の機序による不整脈、冠動脈疾患、心不全、あるいは心筋虚血/壊死など、現状の心毒性評価戦略では予測対応できていない心毒性であることを改めて認識する必要性が指摘されている。また、潜在的QT延長/催不整脈リスクを有する薬剤群の市場からの撤退及び開発回避に多大な貢献をしてきた世界共通ガイドラインS7B及びE14に関しても、推奨surrogate markersであるhERG チャネル阻害/QT延長作用が的確に不整脈誘発活性を予測できていない現状を懸念し、当該評価戦略の見直しが開始されている。
これらの状況を打開しうる新たな研究プラットホームとして現在最も期待されているのが、「ヒト幹細胞由来心筋細胞を用いた心毒性評価システム」の開発であり、既に疾患iPS由来心筋細胞の活用も含め産官学共同・世界的レベルで本システムの構築・検証研究が進められている。現在我々は、「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム (TF2-C): CSAHi」を母体として、ヒト幹細胞由来心筋細胞を用い1)QT延長 2)催不整脈 3)収縮機能障害、及び4)心筋細胞毒性といった4つの観点から種々の心毒性リスクを包括的に評価しうる新たな評価系を探索し、各種試験系の応用性や既存評価系に対する優位性を実験的に比較検証する活動を推進している。今回、昨年の発表に引き続き新たに得られた成果を紹介する。