抄録
医薬品研究開発においてヒト初代培養肝細胞は,ヒトにおける薬物代謝および肝毒性リスクを評価するために広く使われてきた。しかし,同一ロットの供給に限りがある点や,ロットによって性状や機能が大きく異なる点,培養に伴い肝機能が急激に低下する点などが問題視されてきた。また,肝臓における薬物代謝能は,SNPsのような遺伝的要因や,年齢や生活歴などの非遺伝的要因によって個人差が大きいことが知られている。したがって,単一ロットのヒト初代培養肝細胞による評価では,ヒト集団全体における薬物代謝や安全性を必ずしも担保できないのが現状である。近年,ヒトiPS細胞由来肝細胞が市販されるようになり,同一ロットの安定供給や,複数ロット評価の簡便化,再現性の向上などに期待が集まっている。本コンソーシアムの肝臓チームではこれまで,薬物代謝および毒性評価における,ヒトiPS細胞由来肝細胞の有用性および問題点を提示することを目的に,3種類の市販ヒトiPS細胞由来肝細胞について評価を行った。その結果,市販ヒトiPS細胞由来肝細胞の主要CYP活性はヒト初代培養肝細胞に比べて極めて低く,遺伝子発現レベルでの性状もヒト初代培養肝細胞とは異なっていることを明らかにした。しかしながら,対照としたヒト初代培養肝細胞の例数が少なく,その機能および性状の基準については情報が十分でなかった。今回我々は,医薬品研究開発,特に薬物代謝および毒性評価で用いられている,市販ヒト初代培養肝細胞の機能や性状の数値情報について調査を行った。この調査結果が,薬物代謝および毒性評価に使用するヒトiPS細胞由来肝細胞が有するべき,機能と性状の参考とされることを期待する。さらに,ヒトiPS細胞由来肝細胞研究や代謝個人差研究の現状についても調査を行った。本講演では,これらの調査結果を元に,ヒトiPS細胞由来肝細胞を医薬品研究開発に用いる上での今後の課題について議論したい。