日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: S18-5
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シンポジウム18 実験発がん研究の新基軸 (故きを温ねて新しきを知る)
iPS細胞作製技術を用いたがん研究
*山田 泰広
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抄録
人工多能性幹細胞(iPS細胞)樹立には、遺伝子配列の変化は必要としない一方で、DNAメチル化などのエピジェネティック修飾状態がダイナミックに変化することが知られる。同時に、iPS細胞樹立過程において、体細胞は自己複製能を獲得し、無限に増殖可能となる。体細胞における無限の細胞増殖能の獲得は、発がん過程においても必須であることから、幹細胞性の獲得と発がん過程の共通点が見いだされる。我々は、これら二つの細胞運命変化における類似性に着目し、iPS細胞作製技術を発がん過程の理解に応用する取り組みを行っている。特にiPS細胞樹立過程における自己複製能の獲得には、エピジェネティック修飾状態の改変が重要であることから、細胞初期化過程において体細胞に自己複製能を付与するエピゲノム制御機構の解明を目指し、その知見を発がんメカニズムの解明へと応用しようと試みている。
幹細胞性の獲得と発がんとの関連を明らかにするために、薬剤依存的に全身で細胞初期化因子を誘導できるマウスを作製した。生体マウスにおいて細胞初期化因子を強制発現させると、生体内で多能性幹細胞が誘導できることが確認され、生体内細胞初期化システムが構築された。興味深いことに、生体内において初期化因子の一過性強制発現により部分的な細胞初期化を誘導すると、自律性に増殖を続ける異型細胞が出現し、がんに類似した病変を形成することが分かった。組織学的、分子生物学的な解析により、これらのがん類似病変は小児芽腫に類似することが明らかとなった。観察された小児芽腫類似病変では、DNAメチル化状態の大きな変化が確認された。細胞初期化に関わるエピゲノム制御変化と小児芽腫発生との関連が示唆された。本発表では、生体内細胞初期化による腫瘍発生モデルとともに、がん細胞初期化の試みを紹介し、iPS細胞作製技術を用いた発がん研究から明らかとなりつつあるがん細胞のエピゲノム制御について議論したい。
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© 2015 日本毒性学会
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