抄録
エピジェネティクスは塩基配列の変化を伴わずにゲノムDNAやヒストンの後天的修飾により転写を制御する仕組みとして注目され、様々な生命現象への関わりが明らかにされてきている。私達は化学物質がエピジェネティック制御に影響し、生体に好ましくない作用を及ぼす現象を「エピジェネティック毒性」と定義し、2011年~2014年にかけ4回に渡るシンポジウムにおいてその重要性を指摘するとともに、重点的な研究の必要性を訴えてきた。エピジェネティクスこそが化学物質の長期に渡る影響や、化学物質を含む環境要因により疾患素因がどう形成されるかを説明しうる可能性があり、解析技術の大幅な進展に伴うブレイクスルーにより現象の理解が進むことが期待される。
今回のシンポジウムではin vivoの事例を中心に、エピジェネティクス解析技術を含めたin vitroの事例を交え、エピジェネティック毒性研究の現状を議論したい。まず私の方で本分野全体を概説しエピジェネティック毒性のイントロとする。次に、in vivoの事例としてがんのエピジェネティクスを牛島先生から、化学物質の胎生期影響としてバルプロ酸による遅発性学習記憶障害の研究を中島先生から、高血圧、特に食塩感受性高血圧症とエピジェネティクスの関係を下澤先生から紹介して頂く。In vitroの事例として、培養細胞を用いたエピジェネティック毒性検出手法の検討を窪崎先生にご紹介頂き、特定のDNA配列のメチル化を組織切片上で視覚化する画期的な技術であるMeFISH法を志浦先生から、ゲノムワイドなDNAメチル化網羅的解析手法を現実に実施できる時代を引き寄せたPBAT法の開発者である伊藤先生に解析技術のトピックを紹介して頂く。本シンポジウムによりエピジェネティック毒性の議論が進み、本分野の研究が進展することを期待している。