抄録
セレンとテルルは第16族のカルコゲン元素であり、カルコゲンオキシアニオン(亜セレン酸、セレン酸、亜テルル酸、テルル酸)として比較的安定に環境中に存在する。両者は先端産業における重要な元素だが、環境中ではそれらの毒性のため汚染原因物質となる。一方、セレンは動物等の必須微量元素であり、特定のタンパク質(セレンタンパク質)中にセレノシステイン残基の形で取り込まれ、様々な生理的過程に関与する。近年、カルコゲンオキシアニオンを還元し毒性の低い元素状カルコゲンの微粒子を形成する微生物が見出され、この作用を活用した廃水・環境浄化法が注目されている。また、微生物によって形成されるセレン微粒子は粒径が比較的そろっており、この機構を応用した金属微粒子合成法も考えられている。セレンオキシアニオン還元細菌としてはThauera selenatis やBacillus selenatarsenatisについてセレン酸還元機構に関する知見が得られているが、亜セレン酸から元素状セレンへの還元機構ならびにテルルオキシアニオン還元機構については不明な点が多く残っている。本講演では、我々がインドの高濃度亜セレン酸含有土壌から単離した特徴的なカルコゲンオキシアニオン還元能を持つ細菌の特性解析ならびにカルコゲンオキシアニオン還元に関与する遺伝子を同定する研究を紹介するとともに、細菌におけるカルコゲン代謝について概観したい。