抄録
テルル(Te)は、相変化型DVDの記録層を形成する中心素材などとして使用されるレアメタルである。相変化型DVD(いわゆるDVD-RAM等)は、広く我々の生活圏に浸透し、製品の劣化とともに環境中にTeが流出する可能性が考えられる。
Teは典型元素と金属元素の物理化学的性質を併有したいわゆる類金属であり、生体内では炭素とTeが直接共有結合した有機金属化合物として代謝物が生成することが想定される。従って、代謝物の化学形態を同定することによって、代謝過程を明らかにすることができる。
金属含有代謝物の化学形態分析は、化学形態に応じて分離する手法と金属を特異的に検出する手法とから構成される分析法である。金属含有代謝物の化学形態分析では、分離手段としてHPLCを、検出の手段として、高感度に金属を分析可能な誘導結合質量分析装置(ICP-MS)や、最近ではICP-MSの欠点を補う目的でいわゆるLC-MSが利用されるようになってきた。本研究では、金属含有代謝物の化学形態分析を利用し、Teの生体内及び環境中の動態について解析を行った。
相変化型DVDに由来する無機のTe化合物を、動物に曝露した場合、尿中に排泄されたTe代謝物の99 %以上は唯一の代謝物であり、その化学形はトリメチルテルロニウム(TMTe、(CH3)3Te+)であると同定できた。同族であるセレンの主たる尿中代謝物はセレノ糖であったが、これに相当するテルロ糖は検出できなかった。DVDからのTeの曝露を想定した場合、直接動物に無機のTe化合物が曝露されるよりも、一旦、無機のTe化合物が植物に取り込まれ、植物のTe代謝物を介して動物に取り込まれることが、動物に対するより現実的な曝露経路と想定される。そこで、無機のTe化合物を植物に曝露し、植物内のTe代謝物の化学形態分析も行ったところ、ある種の植物ではTeはTe含有アミノ酸として代謝されることが明らかとなった。
以上のことを含め、Teの代謝、毒性や環境中の動態について報告する。