抄録
医療現場では,様々な中枢作用薬が使用されている.「毒性」の観点からは,急性毒性と慢性毒性を分けて考えるべきである.日本中毒情報センターによると2013年1年間に同センターが受信した中毒34024件のうち,医薬品中毒は10600件(31.2%)を占めていた.OTCを除く医療用医薬品中毒7087件のうち,中枢神経用薬は1687件(23.8%)を占めた.筆者らが報告した2005年~2009年の4年間に経験した611名の急性薬物中毒患者では,精神科受診歴のあるものが521名(85%)であり,意図的な乱用の頻度が高い.中毒患者を実際に診療する救急医療の現状は,大量服用による薬効自体の作用増強に加えて,他の臓器に及ぼす問題に悩まされることが多い.その長期的後遺症についてはほとんどの場合気にされない.本発表では実際の中枢作用薬中毒症例を提示し,問題点を考察する.
【症例1】23歳女性.意識障害と痙攣発作のため,救急搬送.精神疾患で通院中,抗精神病薬,抗うつ薬,リチウムを内服していた.母からの情報で,インターネットで注文した薬物を内服した可能性があった.心電図上QT時間の延長があり,頻拍性不整脈から心停止となった.直ちに除細動,心肺蘇生を行い心拍再開,数時間の間に計9回の心室細動による心停止を繰り返した.ペースメーカー等の治療で循環動態安定.原因薬物はタイ国製のHaloperidolであった.
【症例2】65歳男性.構音障害とふらつきにより救急搬送.小脳症状があったため脳卒中が疑われたが,画像所見で否定され,内服中のフェニトイン血中濃度高値から,同薬中毒と診断.フェニトイン中毒には血液吸着が有効だが,症状と重症度から施行しなかった.
中枢作用薬中毒は頻度が高く,臨床的に問題となる.その多くは過鎮静や呼吸抑制などの薬効増強ではない.救急医は急性の症状,致死的かどうかを問題とし長期的後遺症は考慮しないことが多い.基礎と臨床の両面から,毒性を考える必要がある.