日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-2
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シンポジウム4 ナノマテリアルの毒性評価の進捗
アスベストによる中皮腫発がん機構の解明とナノマテリアルのリスク評価
*豊國 伸哉
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抄録
現在、日本人死因の第1位はがんである。産業・経済の発展を重視するあまり、リスク評価が十分になされないまま、ナノマテリアルが社会に多量に持ち込まれ、がんの原因となったことを忘れてはならない。それがアスベストであり、白石綿・青石綿・茶石綿が世界中で多量に使用された。日本では2006年に全面禁止となったが、アジア諸国を中心に現在も産生・使用されている。日本の中皮腫発生ピークは2025年と予想されており、今後10万人以上が中皮腫で死亡すると試算され、現在発生数が増加している。ラットで上記3種のアスベストの腹腔内10mg投与により中皮腫発がん実験を行った。2年の経過でほぼ全動物に中皮腫が発生した。アスベスト投与部の中皮細胞や貪食細胞に著明な鉄沈着を認め、Fenton反応促進性のニトリロ三酢酸の追加投与により、中皮腫発生が有意に早くなった。93%の腫瘍でCdkn2a/2bのホモ欠損を認めた。アスベスト発がんでは局所の過剰鉄病態が重要なことが示唆された。このような背景のもと、すでに中皮腫の危険性の報告のあった多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の評価を行った。MWCNTは軽量・高強度で熱伝導性が高く、導体・半導体になることからすでに使用されているが、物理的形状は石綿に酷似している。直径が15/50/115/150 nmのMWCNTを使用し中皮細胞毒性実験ならびに、上記と同様のラットを使用した発がん実験を行った。中皮細胞への毒性と発がん性はほぼ一致し、直径50 nmのMWCNTの発がん性が最も高かった。Cdkn2a/2bのホモ欠損をほぼ全例で認めた。このことは、剛性が高い50 nm直径のMWCNTは特に注意して扱うべきことを示唆している(IARC Group 2B)。ヒトにおいて体腔に繊維が到達することはそう容易ではないと考えられるが、感染症が克服され、ますます長寿化が進む現在、新素材の十分なリスク評価とリスク管理は重要と考える。参考文献:1. Nagai H et al. Proc Natl Acad Sci USA 108: E1330, 2011; 2. Jiang L, et al. J Pathol 228: 366, 2012; 3. Toyokuni S. Adv Drug Deliv Rev 65: 298, 2013
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© 2015 日本毒性学会
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