抄録
多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)の発がん性試験には高額な吸入曝露設備と2年余の期間が必要であるため、補完する短期代替モデルを開発した。ラットによる❶短期in vitro Mφ曝露試験、❷ 8日~20週の経気管肺内噴霧投与(TIPS)後の肺・胸膜病変と胸腔洗浄液(PCL)成分について種々の解析を行い、❸長期投与との相関性を検証した。
❶ラットより採取した肺胞Mφ初代培養液中にMWCNTsを加えて得られた培養上清のヒト中皮腫細胞と肺がん細胞に対する増殖刺激作用は、針状MWNCTおよび 青アスベストに強い傾向が見られた。
❷長さと直径の異なるMWCNTsを250μg/0.5mL/ラットを週1回24週間投与した。針状MWCNTによる胸膜(壁側と臓側)の肥厚、胸膜中皮細胞の増殖率、PCLのIP-10、RANTES、IL-2、IL-18は何れも針状MWCNTに最も高値であった。針状MWCNTおよびCROを4週間に8回のTIPS投与による回復試験では、MWCNTsは投与直後には肺胞壁とPCLに多数見出されたが、12週後では特に肺胞で著しく減少した。中皮細胞の増殖と胸膜の線維性肥厚は、すべての投与群において溶媒群の約4~6倍に維持された、とくにMWCNT-7(針状、IARC Group 2B評価)による胸膜の線維性肥厚は持続された。
❸長期試験(2年投与):針状MWCNT(長さ>2.5μm)を2週間に8回肺内TIPS投与後、2年間の観察によって、心嚢、胸膜の悪性中皮腫(20%)と肺胞上皮腺腫+腺がん(29%)の発生が認められた。すなわち、針状MWCNTの肺内投与によって胸膜中皮腫が発生することが初めて示された。従って❶と❷の所見には前癌病変が含まれ、❸における悪性中皮腫の発生の指標と考えられた。従って❶❷は長期発がん試験の短期代替モデルとして実用化が可能と考えられた。