抄録
ストレートタイプの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)はその形状や機械的強度をもつ特徴からアスベストと同様に肺線維症、肺がん、中皮腫、胸膜肥厚等を引き起こす可能性が危惧されている。人はMWCNTを取り扱う様々な状況で経気道的に暴露する可能性がある。そこで、実際の人の暴露経路を考慮し、MWCNTの乾式での吸入暴露試験を行うためにサイクロン・シーブ法によるエアロゾル発生装置を開発し、雌雄ラットを用いた全身吸入暴露による2年間の吸入発がん性試験を行った。
被験物質はストレートタイプのMWCNT(保土谷化学工業社製のMWNT-7)を使用した。投与は、0、0.02、0.2及び2mg/m3の濃度のMWCNTエアロゾルを1日6時間、週5日間、104週間(2年間)、F344/DuCrlCrljラットの雌雄に全身暴露することで行った。暴露中は、OPC(Optical particle controller、OPC-AP-600、柴田科学(株))を用いたMWCNTの個数濃度の連続測定と発生装置の帰還制御により吸入チャンバー内濃度を一定に維持した。また、2週間毎に各チャンバー内の質量濃度の測定、3ヵ月毎に粒子径測定及びSEMによる形態観察を実施した。2年間の暴露期間終了後、全動物を剖検し、気管支肺胞洗浄液の細胞及び生化学的検査、胸腔洗浄液のSEMによるMWNTの検索、マーカー(Benzo[ghi]perylene)を用いた肺内のMWCNTの定量及び病理学的検査を実施した。
チャンバー内のMWCNTは、良く分散した状態が確認され、チャンバー内濃度は各濃度群とも設定濃度で安定しており、変動も少なく、2年間の高い精度の暴露が確認された。気管支肺胞洗浄液検査では炎症性反応を主体とした変化が細胞学的検査及び生化学的検査で認められ、これらの変化は何れも暴露濃度に相関して増加した。また、肺内のMWCNT量も暴露濃度に対応し、増加した。胸腔内には、低濃度から暴露濃度に相関してMWCNTが認められ、直線状のものがほとんどであった。病理学的検査では、肺の重量増加が濃度に相関して認められた。なお、詳細な病理組織学的検査を現在実施中であり、結果は本シンポジウムで発表する。