抄録
工業的ナノマテリアル(ENM)の産業応用が急速進展する中、製造者及び製品利用者の健康被害の防止のための規制決定及び、業界における安全面からの国際競争力の保持の観点から、基礎的定量的な毒性情報を得る評価法の確立が急がれる。当研究部では、既存毒性情報に乏しいENMに関しては、人の暴露様態に即した吸入暴露毒性試験による有害性同定とその分子機構解明が必須であるとして、高度分散法(Taquann法)及び、それをエアロゾル化するカートリッジ直噴式ダスト発生装置を独自開発した(Taquann直噴全身吸入装置)。本装置により多層カーボンナノチューブMWNT-7の場合、重量の95%を占める凝集体・凝固体をほぼ除去した高分散検体をマウスに全身暴露吸入することが可能となり、対照群、低用量群(1mg/m3)、高用量群(2mg/m3)の3群の構成で1日2時間、合計10時間、マウスに暴露し単線維が肺胞内に到達する事を確認した。暴露後52週まで経過観察し、終末細気管支から肺胞レベルの間質性病変を誘発すること、一部は胸腔内に達し、壁側胸膜面に中皮腫発がんを示唆する顕微鏡的病変を確認した。高用量群の暴露完了直後の肺負荷量は4.2 µg/動物、肺内における半減期は約13週であった。肺内MWNT-7の繊維長分布は吸入直後から52週後まで不変であった。本装置は汎用性が高く多様なENMに対応可能であること、使用検体量が少ないことから、少量新規ENMの吸入毒性評価に有利である。例として、酸化チタン(一次粒子径35nm)のMMAD約800nmのエアロゾルを2mg/m3にて発生し、二次粒子がマウス肺胞レベルに到達することを確認した。現在、本装置により肺遺伝毒性、全身免疫の慢性影響等の研究に対象を広げている。本法の普及による新規ENMの有害性同定及び毒性評価の促進が期待される。(厚生労働科学研究費補助金等による)