日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: S5-4
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シンポジウム5 農薬の安全性と毒性の評価とその問題点
ネオニコチノイド系殺虫剤環境曝露と近時記憶障害
*平 久美子
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抄録
ネオニコチノイド(NN)は、1990年代から使用が始まり、現在世界で最も売上げの多い殺虫剤で、水溶性、浸透性を特徴とする。日本では7種類、年間約400tが出荷されている。従来使用されてきた有機リン系およびピレスロイド系の殺虫剤と比べて環境中半減期が長く、多くの活性代謝産物を生じ、当初予想されたより、はるかに幅広く生態系に分布し影響を与えることが、明らかになりつつある。使用地域では、土壌、水から日常的に検出され、日本では一般人の尿中からも高率に検出される。NNはニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合して作用し、実験動物で神経毒性、神経発達毒性、代謝毒性(肥満、脂質異常、糖尿病)、生殖毒性、免疫毒性、発がん性、ヒトで職業性曝露や誤飲による急性中毒例が報告されている。臨床的に、現在最も懸念されているのは、長期持続曝露による慢性影響で、群馬県では、2006年以降、国産果物や茶飲料の連続摂取後に、原因不明の頭痛、全身倦怠、動悸/胸痛、筋痛/筋脱力/筋攣縮、腹痛、発熱、姿勢時振戦、近時記憶障害および心電図異常(洞性頻脈または徐脈)が同時に出現し、果物、茶飲料の摂取禁止により数日から数十日で緩解する例が、数百例見出されている。患者は幼児から高齢者まで幅広い年齢層にわたる。非常に興味深いのは、近時記憶障害が可逆性であることである。近時記憶は、即時記憶よりは保持時間が長い、数分から数日前の記憶で、情報の記銘と想起の間に干渉が介在し、保持情報が一旦意識から消えることを特徴とする。nAChRが神経組織のほか免疫細胞にも存在することから、発生機序として神経と免疫の両方が考えられている。バイオマーカーとして、尿中N-デスメチルアセタミプリドとチアメトキサムが数~数十nMの濃度で見出されているが、典型的な症状を示すものの尿中に検出されない例もあり、今後の課題である。
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© 2015 日本毒性学会
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